1話:遺言

「今日は異常にひまですね」
「そうだな」
 あるお城の一室で、10代後半の女性と20代初めと思われる
男性が、のほほんと外を見ながら座って話していた。
「いつもでしたら、朝からトラブルメーカーである貴方が
 城の中を滅茶苦茶にするというのに」
 女性は、名を『水仙』といった。そして片方の男性は『竜胆』という。
竜胆は水仙に向って苦笑いした。
「そうそういっつも元気に走り回ってるわけじゃ、ないんだけどな」
「え?いつも走り回ってるじゃないですか」
「まあ、人によってはそう感じることもあるさ」
 竜胆はすっと立ち上がり、廊下へむかう。
「なんか菓子持ってくるわ」
「あ、はい。わかりました」
 彼が出て行った瞬間、ドタバタと音がする。何か問題があったに違いない。
「やっぱり、じっとしていられない方ですね」
 水仙はドタドタという音を聞きながら、くすりと笑った。

「ほらよ」
「随分遅かったですね、竜胆」
 よく見ると、竜胆の顔に切れた後がある。
「えーっと・・・そこで、葵と会ったから・・・」
「また喧嘩したんですか。まったく、貴方たち二人は仲が良いのですね」
 竜胆は、あー・・・と、水仙の言葉を聞く。
「喧嘩するほど仲が良いって奴か?それ、全然ッ駄目。あてはまんない」
「そうですか?結構仲が良いとおもうのですが」
 竜胆はそうかなー、と少し考えてから、何かを思い出した。
「あっそうそう!そこで葵に聞いたんだけどよ、近頃水仙の親父が具合悪いって
 ほんとか?」
「あぁ――・・・。はい、そうです。3日ほど前に倒れられて」
 竜胆は首を傾けた。
「もしかして、寝てんの?俺が暴れてちゃまずかったのかな」
「そうでしょうね」
「あっちゃ――・・・」
 やってしまったとばかりに竜胆は額に手をつける。
「もう少し静かにしていよう・・・」
「はい。それが貴方にとってもいいと思います」
 いつもと変わらず、水仙はにこりと微笑んだ。

 その3日後、水仙の父は亡くなった。
「お父様・・・何故かへんてこりんな遺言を残されております」
「え・・・?」
 水仙がはっした言葉に、気まずいながらも竜胆は駆け寄った。
「竜胆と二人で土地を治めるように、とおっしゃったそうです」
「俺と、水仙がぁ?なんでまた・・・」
 水仙は小首をかしげた。
「私にも、よくわかりません。とりあえず、遺言に従いましょう」
「え、あ、おお!」

 その日も、暖かい日差しが差し込んでいた。

続く


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